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分の所属物をしめす名詞の対格と他動詞が組み合わさった場合」を取り上げ、次のように
述べている。「「羽を垂れる」「身をちぢめる」のような文は、他に対するはたらきかけをあ
らわしているのではなく、主体である自分の状態をかえることを表している。つまり、対
格名詞と動詞のくみあわさった連語が、ひとかたまりになって自動詞相当となり、合成述
語をなしている」。何かを身につけることを表す場合も、身につけたものは動作の後では主
体の所属物になるとして、「つける」や「着る」も主体と客体が所属関係にある場合に含め
る。また、高橋(1985)は、「再帰態はヴォイスとしては消極的である。他動詞を自動詞化す
ることによって能動態からのがれさせる」と、ヴォイスの一種としての再帰態にも言及し
ている。
このように仁田や高橋は、「再帰構文は自動詞に近づいている」と主張し、その根拠とし
て、①迷惑の受身ではない普通の受身が対応しない。②ヲ格成文と動詞が組み合わさった
意味を表す自動詞文に相当することが多い。③対応する自動詞がなく、対応する他動性他
動詞がある点などをあげている。
これに対し、天野(1987a)は、仁田や高橋が「再帰構文は自動詞に近づいている」という
主張の根拠にしているこれらの点について反論し、本当に他動詞でありながら自動詞文に
近い意味を表すのは、「太郎が空襲で家を焼いた」のような文であると言う。天野(1987b)
は、他動詞でありながら、主体から客体への働きかけが全くないこのような文を「状態変
化主体の他動詞文」と呼び、成立の条件として次の二点をあげている。
①他動詞のうち、主体の動きと客体の変化をあらわす「動き変化の他動詞」は状態変化主
体の他動詞文を作ることができる。主体の動きだけをあらわし、客体の変化を意味しな
い「動き他動詞」は状態変化主体の他動詞を作れない。
②「動き変化の他動詞」について、主体と客体が「全体−部分」という関係をもつとき、
状態変化主体の他動詞文が成立する。
天野は、他動詞の意味を主体から客体への「働きかけ」から「所有する」という所有関係
にまで広げることによって、「スキーで骨を折った」「空襲で家を焼いた」のような文を、
再帰という枠組ではなく他動詞文の枠組の中で捉えようとした。
また、工藤(1995)は、再帰動詞と自動詞が近いことを、使役・他動・自動との関わりの
中で説明している。使役・他動は参加者が2項以上の、主体から客体へと働きかける外的
運動であり、自動・再帰は、参加者が1項の、働きかけ性のない内部運動である。再帰と
自動の違いは、所有者−所有物の内部分化がある場合に、所有者を主語とするか、所有物
を主語とするか(「チューリップが芽を出す」と「チューリップの芽が出る」)にあるとす